Exotic Animal:Reptiles
爬虫類のよくある症状や病気

爬虫類 クリプトスポリジウム症

クリプトスポリジウムは原虫という寄生虫の一種で、
魚類、両生類、爬虫類、鳥類および哺乳類といった様々な脊椎動物を宿主としています。
爬虫類ではカメ目、ヘビ亜目、トカゲ亜目で報告されています。

特にヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)のクリプトスポリジウム症は
国内の飼育頭数や流通が多いため、目にすることの多い病気の一つです。

クリプトスポリジウムは環境中ではオーシストと呼ばれる殻に覆われた状態で存在し、
それを糞便や汚染された水、食餌などから経口的に摂取することで、
消化管の細胞に寄生・増殖し胃炎腸炎を引き起します。

また、オーシストは塩素やアルコールなど一般的な消毒薬に抵抗性を持ち、効果はありません。

【症状】
・体重減少、削痩                  
・嘔吐、軟便、下痢                 
・食欲不振                     
・腹水による腹部膨満                
・総排泄孔脱、直腸脱                

【診断】
糞便検査にてオーシストを確認することで診断します。

しかし糞便検査でのクリプトスポリジウムの検出感度が低いため、
複数回実施する必要があります。

また、糞便などから遺伝子検査(PCR法)によって検出することも可能です。

【治療】
現在、爬虫類のクリプトスポリジウム症に対して根治治療は確立されていません。
症状の改善や増殖を抑える薬や強制給餌、点滴などの支持治療が主体となります。

また、感染拡大を防ぐため感染個体は隔離し、
ケージや器具、餌用昆虫の使い回しは避けるようにします。

消毒は64℃以上の熱湯で2分間以上行います。
痩せたヒョウモントカゲモドキ
治療後の同一個体

カメ-下部呼吸器疾患(肺炎)

カメの肺炎の原因は感染性と非感染性に分けられます。

感染性肺炎の原因は細菌、真菌(カビ)、ウイルス、寄生虫で、
多くの場合は不適切な食餌や飼育環境、輸送のストレス、基礎疾患などによって
免疫力が低下したことにより感染(日和見感染)します。

特に幼体や若齢個体の肺炎では不適切な食餌や飼育環境が原因と思われるものが多いです。
慢性的に症状が進行し、重度の衰弱や死亡することもあります。
感染性 細菌性 多くの場合が日和見感染症 リクガメのマイコプラズマ感染症
真菌性 多くの場合が日和見感染症
ウイルス性 ヘルペスウイルス感染症、ラナウイルス感染症
寄生虫性 吸虫、舌虫、線虫類の迷入症、コクシジウム症 頻度は低い
非感染性 異物の吸引、ビタミンA欠乏、外傷、腫瘍、卵黄性腹膜炎
【症状】
・食欲元気の低下
・異常な呼吸音(ピーピー鳴く)、口から泡を出す、開口呼吸、喀血
・鼻汁、結膜炎(主に陸棲種:インドホシガメ、ギリシャリクガメ、ヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメなど)
・水に入りたがらなくなる、傾き遊泳(主に半水棲種:ミシシッピーアカミミガメ、クサガメ、イシガメなど)

【診断】
問診で食事内容や温度/湿度などの飼育状況や換水や清掃頻度などの衛生管理を確認させていただきます。
一般身体検査では栄養状態とともに、口の中を診て気管開口部の炎症、口内炎、分泌物の有無などを確認します。

肺炎が疑わしい場合はレントゲン検査で肺の状態を評価します。
粘液状の鼻汁等があれば採取し、菌培養検査で原因を特定します。
重篤な場合は血液検査も行い全身の状態を確認します。

カメの肺炎は原因を特定した確定診断が難しい病気ですが、上記の検査を総合的に評価して診断します。

【治療】
原因に対して抗菌薬や抗真菌薬を使用します。
来院した時点で病状が進行している場合も多いため、治療が長期化する可能性があります。
衰弱した個体は腸の動きが停滞するため、薬剤は経口投与より注射で投与する方が効果的です。
傾き遊泳(ミシシッピーアカミミガメ)
気管開口部(
肺炎のレントゲン画像(左肺の白色化:

カメの嘴過長 

カメの仲間は鳥と同様、
歯を持たない代わりに角質でできた嘴(くちばし)を使って、
餌を引きちぎり咀嚼せずに飲み込みます。

嘴の形状は食性によって異なりますが、通常は下嘴が上嘴の内側に位置しています。
嘴は爪と同様に成長しますが、上下の嘴が擦り合わさることで摩耗し形状を保っています。

また、一般的に草食性のカメの方が肉食・雑食性のカメに比べて嘴の成長速度は速いため、
嘴の過長やそれによる不正咬合は草食性のカメで多くみられます。 

【原因】
・柔らかい食餌、食餌中の繊維質不足による嘴の摩耗不足 
・カルシウムや紫外線の照射不足による代謝性骨疾患 
・タンパク質の多給 
・ビタミンA欠乏症 
・外傷、口内炎 
・肝疾患 

【診断】
特徴的な嘴の形状を確認して診断します。
また、不適切な食餌が原因のことが多いため、問診が大切になります。

食餌内容や与え方、飼育環境、
紫外線ライトの有無やライトの交換時期などを確認させていただきます。

身体検査で嘴以外にも異常がある場合は、
上記の疾患が原因の可能性もあるので、レントゲン検査や血液検査を行います。 

【治療】
過長した嘴を正常な形状になるようにトリミングします。
嘴の根元には神経や血管があるため、削り過ぎないように注意します。

当院では歯科処置用のマイクロエンジンを使用して研磨することで、
痛みやストレスを減らし短い時間で処置することができます。

また問診をもとに原因となる食餌内容や飼育環境の指導も行います。 

上嘴の過長(ヨツユビリクガメ)
嘴のトリミング

爬虫類 代謝性骨疾患(MBD:Metabolic bone disease)

代謝性骨疾患(MBD:Metabolic bone disease)とはカルシウムの代謝異常で引き起こされる骨の病気の総称です。
MBDには上皮小体機能亢進症、骨軟化症、くる病、骨粗鬆症などの病気が含まれます。
爬虫類のMBDの原因は食餌中のカルシウムやビタミンDの不足カルシウムとリンの不均衡昼行性種における紫外線不足などによって引き起こされる栄養性のものが多いといわれています。
そのため、成長期の幼体や繁殖期のメスに多くみられます。症状は大きく分けると「骨や甲羅の変形に伴う症状」と「血液中のカルシウム濃度の低下に伴う症状」です。
血液中のカルシウム濃度の低下は筋肉や神経、腎臓、消化管、卵管といった骨以外の臓器にも病気を引き起こします。

【症状】
動物種 症状
カメ 甲羅の軟化・変形、歩行異常、嘴の変形
消化管のうっ滞、総排泄孔脱、陰茎脱、卵管脱、卵塞、腎障害、発育不良
トカゲ 背骨・下顎骨・四肢の骨の変形、歩行異常
低カルシウム血症による全身性の痙攣・神経症状、「ピアノを弾いているような」部分的な指の痙攣
総排泄孔脱、卵管脱、卵塞、腎障害、発育不良、病的骨折

骨や甲羅の変形に伴う症状

甲羅と嘴の変形
重度削痩と前肢の変形
(ヒョウモントカゲモドキ)
下顎の変形
(ヒョウモントカゲモドキ)

血液中のカルシウム濃度の低下に伴う症状

全身性の痙攣・神経症状(ヒョウモントカゲモドキ)
【診断】
下記の検査を組み合わせて総合的に診断します。

・問診・・・飼育環境や食餌内容の確認
・身体検査・・・甲羅の硬度、姿勢や歩行の評価
・レントゲン検査・・・骨の変形・菲薄化、消化管のうっ滞、卵の有無、病的骨折の有無
・血液検査・・・血液中のカルシウム・リン濃度、発情の有無、腎機能の評価など


【治療・予防】
痙攣などの神経症状がある場合や自分で採食ができない場合は定期的にカルシウム剤などの注射をします。また、消化管のうっ滞などの併発疾患がある場合はその動物の状態に合わせた支持治療を行います。慢性経過をたどっている場合や重症な場合は治療に数週間から数ヵ月かかることもあります。
一度変形してしまった骨や甲羅は完全に元の状態に戻すことは難しいため、日頃から食餌や飼育環境による予防が重要になってきます。

具体的な予防方法は主に以下の2点です。

1.食餌中のカルシウム量
推奨されているカルシウムとリンの比率(Ca:P)は肉食・昆虫食で1:1~2:1、リクガメで4:1~6:1といわれています。草食性や雑食性の爬虫類には小松菜やチンゲン菜などのカルシウムを多く含む野菜をメインに与えるとよいでしょう。市販のカルシウム剤を添加することも有効です。
シュウ酸やフィチン酸は腸管内でカルシウムと結合して吸収を阻害するため、これらが多く含まれるホウレン草やキャベツ、穀類、豆類の多給は注意が必要です。

2.紫外線
自然下における昼行性爬虫類は日光に含まれる紫外線(UVB)を浴びることによって皮膚でビタミンD3が生成されます。ビタミンD3は肝臓および腎臓で代謝され活性型ビタミンD3となり、腸管からのカルシウム吸収や腎臓でのカルシウムの再吸収を促します。食餌中のビタミンD3は紫外線照射によって皮膚で生成されたものと比較して、生体内での利用効率は低いとの報告があります。
紫外線ライトは光っていても半年から1年ほどで紫外線照射量が落ちるため、定期的に交換する必要があります。紫外線ライトによって線量の強さが異なるため、動物の生態に合ったものを選びます。また日光浴は紫外線の供給に非常に有効ですが、ガラス越しでは紫外線が吸収されてしまうため意味がないので注意して下さい。